高知県に行きたい。なぜならば素晴らしい植物園があるということを伝えたいから。そこは「高知県立牧野植物園」です。今回は広報の橋本さんに園内を案内していただきました。みどころやおすすめポイントはここだけの話かも?
牧野富太郎さんってどんな人?
牧野富太郎さんは日本の植物分類学の基礎を築いた植物学者です。
現在の高知県高岡郡佐川町生まれ。豊かな自然に囲まれ、幼少期から植物に興味を持つようになりました。植物の図を描いたり、採集したりと独学で植物の研究に励み、発見・命名した植物の新種や新品種はなんと1,500種類以上、収集した標本は約40万枚。
一般市民にも植物の知識や大切さを広く伝える普及活動を行っていました。
そして今春から牧野富太郎博士をモデルにしたNHKの連続テレビ小説 「らんまん」がスタートします。
神業としか言えないくらい、緻密に描き込まれている植物図は
園内の至るところで見ることができます。
また、博士自らが描く植物図でも才能を発揮。今となってはパソコンやタブレットなどのデジタル機器がありますがもちろん当時はありません。驚くほど細く華奢な線は一筆ずつ描かれ、植物の器官、花びらなどの特徴が丁寧に表現されています。ただ美しいだけではなく、学術的な資料でもある正確で緻密なこの植物図のスタイルは「牧野式植物図」と呼ばれています。
植物と共に歩み続け、多くの書籍を刊行。研究者、愛好家のバイブルでもある「牧野日本植物図鑑」は現在も改訂を重ね、今なお刊行を続けています。
高知空港から車で20分。高知県立牧野植物園
高知県立牧野植物園は牧野富太郎博士の業績を顕彰するため、博士逝去の翌年1958年4月に高知市五台山に開園しました。いち個人の名前を冠した植物園はおそらく世界で唯一、高知県立牧野植物園だけ。
約8haの広大な敷地には、博士ゆかりの野生植物など3,000種類以上の草花に出会うことができます。
新エリアも増園され、研究・教育普及・保存はもちろん家族みんなで楽しめる憩いの場を備えた総合植物園として多くの方達から愛され続け、2023年に開園65年を迎えます。
職員たちの植物への情熱と愛が滲み出ている、自然を再現した「土佐の植物生態園」エリア
入口すぐから、植物園というよりは山の中を歩いているかのよう。「植物」が、というよりは「自然」があるという表現がしっくりきます。このエリアだけでも1日楽しめる、何度もリピートするファンがいるそう。
それもそのはず、ここには標高1,500mを超える冷温帯の山地から、低山や私たちが暮らす人里、湖沼、海岸に至るまでの植生をゾーンごとに分けて、代表的な植物を自然さながらに植栽しています。このエリアでは高知県の植物が、まるっと見れ、どう言った植生なのかを知ることができます。
手が入っていないようで、すごく技が光っている
じっくり吟味したくなるのには理由がありました。
4名程で定期的に管理されているこのエリアは、道を挟み植物の手入れも工夫しています。例えば海岸沿いならば風衝樹形にするなど、それぞれの樹木が実際の自然の中で成長する姿を再現するように剪定をしているそう。
植物園内の管理で一番知識と腕がいる場所がこのエリア。別のエリアの植物の種が飛んできて成長していたとしても、その植物の本来の生育環境がわからないと管理ができないとのこと。
自然本来の様子を再現していることもあり、どうしても人の手が入ることは避けられません。作業のために植栽帯に入っていくと足跡、草をかき分けた跡が残ってしまいます。
管理した後を感じさせないためになんと、作業後は後ろ向きに戻りながら葉の位置を元に戻して、足跡が目立たないようにしているそう。剪定した切り口も、なるべく来園者に見えないようにしているという徹底ぶり。びっくりしたことに事実、足跡ひとつないんです。枯れた枝はきちんとそのまま残し、植物が朽ちていく様子も自然の姿として見ていただけます。見上げるだけではなく、足元まで徹頭徹尾、丁寧に行き届いているのがわかるはず。
実はここまでは、まだプロローグ。「土佐の植物生態園」を奥に進むことで、本館、展示館、温室へつながっています。
熱帯も乾燥地帯も網羅。温室は園内のジャングル。
南門のすぐ近くにある温室。周辺からもジャングル感が滲みでています。入る前からワクワクが止まらないはず!
温室の入口の上まで植物で覆われている。
外観も見応えあります。
原始の森をイメージしたみどりの塔と回廊
温室内には国内外から集めた貴重な植物や、熱帯花木、果樹などを見ることができます。入口から注目ポイントが目白押し。高さ9mの塔の壁面にはアコウやシダ植物などが植えられています。
植物の根で作られたドームになるよう今なお成長中ですが、ドームになっていなくても充分の迫力とエネルギーが満ちています。温室内は乾燥地、ジャングルゾーンなど植生ごとにゾーンが分かれているので、植物でちょっとした世界旅行感も味わってみるのも面白いかもしれません。
室内では見れない、たくましい姿が見れる「乾燥地エリア」
サボテン科の植物をはじめ、「アガベ」、「ユーフォルビア」、「サンスベリア」など街やお店で見かける人気のサボテン、多肉植物も展示されています。
「バオバブ」や「アデニア」もなかなか見られないサイズ。
花が咲いた後の「サンスベリア」。
ワイルドな姿がまたかっこいい。
小さな熱帯ジャングルが出没。熱帯雨林の植物が並ぶゾーン
滝を取り囲むのは、水を好む熱帯植物やシダ植物たち。水しぶきを浴びた艶やかな葉が美しく輝いています。どこか異国情緒もあります。
「フィカス」などのいわゆる観葉植物も、何メートルもの高さ。大きく雰囲気が全く違います。とにかく大きく育っている姿は圧巻。溢れんばかりの生命力に魅せられます。
個性的な植物もたくさんありました。
ウマノスズクサ科のアリストロキア・サルバドレンシス。
顔のように見える部分は萼。
家具におやつ、アロマオイル。食品や日用品のそのままの姿
温室だからこそ、なかなか見れない植物たちも育っています。
カカオ、イランイランノキなど食べ物や香水の原料となる植物が育っている姿を見れました。
チョコレートの原料のカカオの実
香水やアロマオイルで使われているイランイランノキの花
見晴らし抜群の「こんこん山広場」、五感をくすぐる「ふむふむ広場」
標高131m周辺ということもあり、とても見晴らしが良いのが「こんこん山広場」。牧野博士自身が自宅で育てていた植物などが植わっています。
家族みんなで楽しめるような場所でもあり、様々なイベントも開催されています。見どころは樹齢100年のスモモの木。さくらみたいな白い花が一面に咲き誇ります。昔スモモがここにたくさん植えられていた頃は3月末頃から白い花で埋まり真っ白になるほどだったそう。
まだできたばかりのエリアなので、大きな樹木より背の低い木が多いです。これは30年後に木陰でみんなが休めるようになるくらい、エリアが成熟することをイメージして植栽されたもの。未来はどんな空間になるのかな。想像してみても楽しめるエリアです。
ふむふむ広場もみんなで楽しめるエリア。
本来、植物園の植物は葉っぱ一枚でも持ち出し禁止になっています。例えるならば、美術館の作品と同じです。
広場にはハーブをはじめ香りを楽しめる植物が
植栽されていました。
このふむふむ広場だけは、植物に触れたり、香ったりしてOK。葉をちぎったり、揉んだりと実際に手触り、色、香りを体感し「ふむふむ」とうなずいてほしいということから広場の名前になっています。
園内散策の裏みどころ?! もっと楽しめる豆知識
貴重な植物は必見
園内には牧野植物園でしか見れない植物や牧野富太郎博士が命名した植物を実際見れます。ここにある植物の多くには番号がついていて、何年にどこから採集してきたかその来歴がわかるようになっています。
また、絶滅危惧種、準絶滅危惧種で今では数が少ない貴重な植物がどれかわかるように展示されています。
キイレツチトリモチ
キノコ?いいえ。多年生の寄生植物なんです。トベラの根っこに寄生し養分をもらい生きています。日本では九州のみで見られていたところ、2014年に四万十町で見つかり、現地で採集した種を職員が園地にまいて発芽したものが開花しています。
ビロードムラサキ
五台山で牧野博士が採集した標本などを基に学名を発表しました。
見つけて名前をつけました。葉の裏側に白い毛が生えていてビロードに似ていることが和名の由来になっています。
ムジナモ
別の植物の調査中にたまたま牧野博士の足元にあった奇妙な植物がムジナモでした。
ムジナモの花は夏の晴れた日にしか咲かず、1〜2時間くらいしか開花を見れないこともあり幻の花と言われています。精密な花の図を描いたことをきっかけに、牧野富太郎博士の名前が世界へ広がりました。
スマホが植物園ガイドに。「まきのQRガイド」を使って楽しさUP!
エリアひとつひとつの移動中も、いろいろと目が離せません。園内に設置されているパネルには植物の説明やみどころが記載されているものがあります。
アプリのインストールも不要でマップ表示、現在地表示機能もあるのもうれしい。広い園内を迷わず楽しめます。植物園内で利用できるサービスは、試す価値ありです。本当に便利でした。
建物も注目ポイント。設計のヒントははあの魚。
緩やかなアーチでモダンな印象の本館。設計のヒントはひらめの骨格標本なんです。
山の上で風の影響を受けやすいため、その圧力にも耐えられるように計算されており、また山の稜線にも馴染むように設計されています。
上から見ると、ひらめがヒントになっているのがわかりやすい。
木材はすべて高知県産。ひとつひとつの長さ、幅が全部異なるため、その場その場で微調整をすることもあったそう。
雨が降っていたので写真左側の雨樋(あまどい)から
雨が下へ落ちて水鉢に流れているようすがわかりました。
さらに、屋根でうけた雨水がといを通じて集められ、植物へ供給されています。細部にまでこだわった自然への気配りを感じられます。
雨の日ならではの楽しみ方もあり
取材当日、朝から土砂降りでした。雨の日にしか味わえない静かさや、雨音と植物の奏でるリズム。雨が描く波紋。それはそれは美しかったです。
牧野博士が愛した植物のひとつ「バイカオウレン」。
1~2月には小さく白い可憐な花が咲きます。
雨上がりの植物たちが雫でキラキラと輝く姿も。
昼過ぎに雨が上がり、1日で雨の日と晴れの日それぞれの楽しみ方を知れたと思います。
所要時間は?
ここまでレポートしていますが、3時間以上滞在しても実はまだ全部を回りきれていないんです。それくらい広大な敷地と植物の数々。あっという間に何時間も過ぎていた!というくらい。
園内は目的や一緒に行く人に合わせて楽しめます。ファミリーや仲間で1日のんびりするもよし、植物好きとじっくりひとつひとつを周るもよし。どちらにせよ、時間にゆとりを持って行くことをおすすめします。
季節によって表情が変わるのも植物園の醍醐味。四季ごとに訪れたくなるスポットなのは確か。公式サイトにはモデルコースの紹介もありますのでチェックしてみてください。
高知県立牧野植物園 情報
住所:高知県高知市五台山4200-6TEL:(088)882-2601
アクセス:
<JRご利用の場合>
JR高知駅で下車
※JR高知駅からは「MY遊バス」をご利用ください。
<お車の場合>
はりまや橋から車で約20分
高知自動車道「高知IC」から一般道で約20分
高知自動車道「高知JCT」経由、東部自動車道「高知南IC」から約15分
高知龍馬空港から東部自動車道経由で約25分
空港からなど他アクセスと詳細は公式サイトをご確認ください。
開園時間
9:00~17:00(最終入園16:30)
休園日
年末年始 12/27~1/1
メンテナンス休園 2023/5/30、10/30、11/27、 2024/1/29
入園料
一般730円 (高校生以下無料)
団体630円 (20名以上)
年間入園券2,930円(1年間有効のフリーパス)
身体障がい者手帳、精神障がい者保健福祉手帳、療育手帳、戦傷病者手帳、被爆者健康手帳所持者と介護者1名、および高知市・高知県長寿手帳所持者は無料
※必ず、窓口にて各手帳の提示をお願いいたします。提示がない場合は、入園料をお支払いいただく場合がありますのでご了承ください。
[お支払方法]
以下のクレジットカード、電子マネーをご利用いただけます。
JCB、VISA、mastercard、AMERICAN EXPRESS
Suica、PASMO、QUICPay、楽天Edy、WAON、nanaco、iD、UnionPay銀聯