ミュージシャンのMVや舞台装飾などを手掛けるフラワーアーティストの田中 元気さんと、野上 璃恵さん。木の温もりを感じる平屋は暮らしの空間でもあり、仕事場でもあります。
植物に囲まれたご自宅にてインテリアのことからお仕事のことなどを伺いました。
左:野上 璃恵さん
職業:フラワーアーティスト
Instagram:https://www.instagram.com/rie_flo_tnk/
右:田中 元気さん
職業:フラワーアーティスト
Instagram:https://www.instagram.com/_genkitanaka_/
ひとつの縁から始まった自然が寄り添う平屋暮らし
− 新築の平屋とはとても魅力的な物件です。どうやって見つけたのですか。
元気さん:花屋になる前、18歳頃にパーマカルチャーデザインの勉強をしていました。
その時に一緒だった人がこの賃貸の大家さんなんです。 以前住んでいた家が屋上菜園可能ということで借りたのですが実際に借りたらNGで。
ちょうどこの家のことを知り、数ヶ月前に引っ越しました。 大家さんは引っ越しから手伝ってくれました。
− 共有部にニワトリがいましたね。足元も木のチップが使われていたり、落葉樹や野菜も植わっていたり。自然を身近に感じられます。
野上さん:そうなんです。この賃貸住宅が“ゆるやかに集まってつくる土と繋がった暮らし”がコンセプトということもあって、居住者たちが顔を合わせられる仕組みがいろいろあります。
元気さん:唐辛子は大家さんが植えたもので、ネギは僕が植えました。
− そういうことだったんですね。家の外から中まで植物が多く、カラフルなインテリアも素敵です。 部屋づくりはふたりでやっているのですか。
またコツや気にかけていることなどはありますか。
元気さん:空間づくりは二人で喧嘩しながらやっています。
野上さん:ふたりともこだわりが強すぎて。
前の家でのことですが、入居して最初にドラム缶を買って怒られました。「家具が何もない時、一番最初にそれ買う?」って。
中に収納もできますし、物も置けるし便利なんですけど。
ドラム缶は引っ越してすぐに元気さんが購入。右のサイドテーブルはリサイクルショップで購入。
ライフスタイルや価値観を大切にした物選び
野上さん:この家は新築なので木の温もり感があるなと。
それをあえてかき消したいというのはあって、コンクリートのブロックを足に使うなど硬い印象のものを取り入れることはしています。
− 全体を見ても収納がないですね。物の収納に関して気にかけていることはありますか。
元気さん:収納は野上さんががんばってくれています。収納がなくて見えている感じも好きです。
生活感こそ固有なものだと思うからあえて隠さずに見せるのもいいんじゃないのかなって。
冷蔵庫横にあるバナナは大家さんからいただいたもの。
元気さん:自分がどういう空間が心地良いかは、人によって違うじゃないですか。
僕の場合、自分の内側にあるものと現実との間にあまりにもギャップがありすぎるとストレスを感じるタイプなんです。なので日常的な空間もわりと色やエッジが効いたものを取り入れています。
シンプル過ぎないで、程よく物量があって雑然としているほうが落ち着く。
野上さん:そしてふたりとも散らかし上手なので、散らかっています。
− この家で作品作りなど作業をすることも多いと思います。
「暮らし」と「仕事場」それぞれで使い分けや切り替えはどうされていますか。
元気さん:アウトプットするときは自分の内側から表現したい。 内面と向き合う時には切り替えのスイッチはありますね。
空間としては家具が少ないから仕事をする時とプライベートの時間での切り替えはしやすいです。
土間を仕事で使うことが多いので、土間には軽くて持ち運びやすい家具を置いています。
できるだけひとつの役割だけではなく、形を変えられたり使い方があるものを選んでいます。
− 家具など普段はどういったところで選んでいますか。
野上さん:家具とかはほとんどお金かけてなくて。
リサイクルショップが好きでミラーや他の家具もリサイクルショップで買ったものです。
緑の棚はご近所さんからのいただきものです。サイドテーブルもリサイクルショップで500円とか。
いただきものの緑の棚には食器や花瓶を収納。
− リサイクルショップを使うとなると、インテリアなどの買い物は自分の足で探すことが多いですか。フリマとかも利用されているのかなと。
野上さん:そうですね。あとは車で偶然通りかかったとか。
家具が置いてあったらUターンしちゃう。
元気さん:フリマも好きです。出店者と話すのも楽しいですよね。
− とてもお買い物上手ですね。ご自身で作ることもありますか。
元気さん:今はあんまり作ってはいませんが、テーブルとして使っているヒノキの板は自分でカンナがけをしました。
知り合いの大工さんから譲っていただいたもので、受け取る際に現場をお借りして作業しました。
後に中からイモムシが出てきて、すごくかわいかった。
野上さん:板が机となってから数カ月後に出てきました。
− まさか数カ月後とは。板の中で暮らしていたということですね。
手で削った板はテーブルとして使用。
元気さん:板の中のものを食べているようで、そういう穴がいくつかあります。
その部分は「虫の彫刻」と言われているらしくて。
へりもあえて削らずそのままで。虫が歩いた跡もあって。ロマンを感じます。
外で植物を植えている流木のプランターも作りました。木だけではなく藤蔓を使ってものを作ることもありました。
流木を使ったプランターは玄関に。
− 自然の姿、素材を上手に活かしてものづくりをされているのがわかります。
そして至るところに観葉植物が飾られていますが、お仕事とは別にプライベートでも園芸店や花屋を見たりはしますか。
元気さん:家にある植物は仕事で使ったものをそのまま育てていることが多くてプライベートで買うことはほとんどないです。
それでも園芸店や花屋さんは入っちゃいます。植物園にも行きますよ。
野上さん:私はセロームを育てたい。幹が目玉みたいなところが好きです。
元気さん:最初は小さくて、時間の経過も蓄積されているのがわかる。
そういう意味でも植物が家にあるのはいいなと思います。小さいものから大きく育てるのは面白いし。
元気さんが三つ編みをするのにはまった時期があって
作ったものはカーテンの飾りに。
窓辺には野上さんが作ったリースやスワッグが並ぶ。
植物はただ綺麗ではない。大切なことを教えてくれる存在
− 花屋になろうと思ったきっかけを教えてください。
元気さん:一番最初はバイトがきっかけです。18〜19歳の頃にパーマカルチャーデザインについて学び、畑で野菜を育てていました。
のちに現代社会のあり方に疑問を抱いてきて、自分の中に表現したいことがどんどん蓄積していって。それを表現するための手段として映像作家になりたいと思い、お金を貯めるために花屋さんでバイトを始めたら、花の世界にすごく魅了されてしまいました。
博多の中洲にある花屋さんということもあり、派手な世界だったんです。花とその周りとの関係性がすごくドラマチックに見えたんですよね。昼間と違う表情があって。
そういうところに心惹かれて、花の道に進むことを決意しました。
野上さん:私は花屋になる前は不動産の営業をしていました。昔からものづくりとファッション、インテリア、植物が好きでした。
ファッションは専門学校で、インテリアは会社で携わってみて「じゃあ次は植物を」と。で、花屋さんで働きはじめました。
季節を感じられること、朽ちていく姿までも魅せてくれる。変化があるから飽きることがない花の仕事がしっくりきました。
− 植物のどういったところに魅力を感じ、惹かれますか。
元気さん:エネルギーと固有性に惹かれますね。
植物って形や匂いとか、色にしても様々じゃないですか。
それもただ綺麗だからということではなく、自らの命をつないでいくための手段としての色だったり形だったり匂いだったり。
それぞれの姿に生きるための術が宿っているというところに、エネルギーを感じます。
それはその花が持つ固有性だと思う。そもそも植物は最初は観賞用ではなかったわけですからね。
作品を作っていても花ひとつひとつ形が違うし、朽ちていく過程も全然違う。
バナナの花。中央の部分がバナナの果実に変わっていく。
元気さん:作品を作るとき、デザインを頭の中で描いたとしても、作る過程で思い描いていたものからすこしずつズレていくんですよ。
花が手に馴染むのか、手が花に馴染むのか。それはまるで花と自分が共犯関係になっていって。
アウトプットを自分が決めているわけではなくて、自分の意図を超えたところに終着する。
それこそ植物、生きているものが持っている魅力なのかなと感じています。
野上さん:シンプルに自然が生み出したこの美しい姿がすごいなと思います。自分だったら考えつかない。
元気さん:固有性って本来僕たちにも宿っているはずなんですよね。できるだけ失わないようにとは思っています。
− 観葉植物や生花など、街や家で見かけるものはもちろん、生き物が好きということが伝わります。
そういう点でも育てるとかではなく生きている姿を見てみたいのはどんな植物ですか。
野上さん:この前、樹齢2100年の木を見てその姿の迫力に圧倒されました。
幹肌に刻み込まれたシワの感じといい、ちょっと怖さも感じられるような。それからいろんな世界の長寿の木を見てみたいなと思いました。
元気さん:時間が蓄積されているような感じがすごくあった。そこに感動した。
調べてみたら世界各地に長寿の木があるので見に行きたいです。
野上さん:畑で花を育てたいです。有機栽培で花を育て、自分の表現で使いたい。
それをまた土に還したら、また別の花が育っていくような循環を作りたい。
元気さん:僕も畑をやりたいとは考えています。
仕事の展望では、もっと広い世界に自分の考えを放り込みたい。
国ごとに流行りも考え方も文化も全然違う。だからこそいろんな考え方の中に自分の作品を放り込んで、その時に得られるリアクションを次の作品に繋げていくことをやっていきたいです。
AFTER INTERVIEW編集後記
玄関の広い土間は、いい具合に色が濃くなっている。引っ越してきてからまだ間もないとは思えないくらい馴染んでいる様子に二人と共に建物も時間を過ごしているのが伝わりました。
大家さんをはじめ人と街、動物、虫、植物。
あらゆる生き物が集う場所なのは変わらない。これからどんな時間を重ねていくのだろうか楽しみです。