ご自身で設計・リノベーションした家に住む、つじぽよ。(辻 繁輝)さん。年間1000人以上が訪れる「来る人のための家」をなぜ作ったのか、部屋や仕事に対するこだわりについてお伺いしました。
つじぽよ。(辻 繁輝)さん
1992年生まれ。株式会社drop 代表取締役。 東京大学工学部建築学科、東京大学院農学生命科学研究科卒業後、マーケティング会社や不動産新規事業立ち上げを経て、新卒で株式会社オープンハウス・ディベロップメントに入社。その後フリーランスとしてリノベーション設計の仕事をする。2021年7月末に法人化。
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コンセプトは「来る人のための家」。細部まで作り込んだ部屋のこだわり。
− こちらの家はご自身でリノベーションされたと聞きました。家全体にはどういったコンセプトがあるのでしょうか。
つじぽよ。さん:少し変わった家を作ろうと思いました。コンセプトは、「来る人のための家」。「来た人が心地よく感じ、集まりたくなる」ようなオープンな家にした結果、自分でも居心地のいい家になりました。
「コロナ禍で生活が激変した状況」と「家という場所」を掛け合わせて、不特定多数の人との接触を避けながら、特定の人だけで集える場を提供したいと思いました。
黒一色の玄関。
左:暗めの玄関から一転、中が明るく見えるよう設計。
右:キッチンには、ウィスキーが並べてられている。
− それでは、部屋の内装やこだわりについてもお伺いしたいです。
つじぽよ。さん:まずは玄関なのですが、見ての通り真っ黒なんです。真っ黒が一番のポイントは、少し変ですけど。
当初から「仕事終わりに集まるウィスキーバー」のイメージでLDKをコンクリートの打ちっぱなしにするのを決めていました。ただそうすると壁の色がグレーで重くなるので、玄関側を黒で暗くして、玄関から入ってきた時にLDKを明るく見せるようにしました。
洗面所は三面鏡になっていて、「2人でも同時に手を洗えたらいいな」ということで大きめにしました。
女の子がお化粧の確認もしやすいかなと思って三面鏡にしました。
使用するタオルを区別できるよう、
「青・赤・グレー」の3色に分けている。
本物の木とモルタルを使用したキッチン。
玄関部と比べて、壁や床の色が明るい。
つじぽよ。さん:メーカーのキッチンは、素材感に満足がいかず、特注で大工さんに作ってもらいました。
このサイズではドアが狭く、部屋に入れられないので、大工さんにこの場で組み立てていただきました。
机上のモルタル部分。側面は木製。
− モルタルの素材感は独特ですね。
つじぽよ。さん:沢山使っているので、よく見るとモルタルの汚れが凄いです。まあ味ってことで(笑)。
左:木を取り入れた下げ天井。収納スペースにも。
右:「また来てもらう」ためにネームタグでボトルキープ。
左:冷蔵庫のサイズにあわせて壁を設計。
右:絵画などを展示できるよう、ピクチャーレールを。
映画鑑賞やプレゼン投影などにも使える大きなスクリーン。
つじぽよ。さん:リビングにはプロジェクターを使って映画を観れるようスクリーンを設置し、クッションを幾つか置いています。自分一人での生活であれば、あまり動かさない大きな家具を置けばいいのですが、我が家には沢山の人が来るので、様々な用途で使いやすいクッションを置くと当初から決めていました。
スクリーンの前にあるクッション。
映画を観ながら寝てしまう方もいるそう。
左:テーブル代わりに使用していたスツールに観葉植物を。
右:寝室から見える観葉植物。
つじぽよ。さん:ベッドで横になった時、ガラス越しに見える位置へ観葉植物を置いています。本を読みながら眺めたりしています。
− 寝室は昼と夜で雰囲気が変わりそうですね。
つじぽよ。さん:変わりますね。取材にいらっしゃる方々は日中に来ることが多いので、皆さん口を揃えて「夜の写真を撮りたかった」と仰います。
左:ベッドの横には月型の照明が。
右:寝室の扉は、180度、両開きに開く。
− 玄関の壁は黒で、土間の壁はコンクリート打ちっぱなし、寝室の壁は木と、それぞれ違った素材を使われていますね。
つじぽよ。さん:それぞれの場所の雰囲気に合わせて壁の素材も意識しています。また、部屋の分け方としては、寝室にはダブルベッドを置くと決めていたので一応余裕を取っていますが、とはいえ全体の2割程度と最小限にしていて、残り8割をコミュニティスペースとして開放しています。
− まさに、「来る人のための家」といった感じですね。
人々の夢を叶える、リノベ物件の可能性。
− 現在は不動産の企画や建築の設計などをされているとのことですが、どういった経緯があって今のお仕事に就いたのか簡単にお伺いできればと思います。
つじぽよ。さん:元々東大で建築を学んでいたバックグラウンドがあり、新卒でオープンハウスに入社し、そこから不動産の仕事をしていました。
ですが自宅は20代のうちに自分で設計したいということでリノベしたおうちが、2020年度の「RENOVATION OF THE YEAR」という、リノベーション日本一を決めるコンペで最終選考まで残ったことをきっかけに、設計の依頼をSNSでたくさんいただき、建築の領域に戻ってきました。
before/after
− なるほど。それで現在「株式会社drop」を創業し、リノベーションのデザインを設計されているということですね。
つじぽよ。さん:会社員時代から副業として設計を受けていたのですが、依頼が多くやりきれなかったので、2021年3月にフリーランスに。また仕事の規模的に、法人の方が良いと思い、2021年7月末に「株式会社drop」を法人化をしました。
− 実際にこのご自宅を撮影スタジオとしてレンタルされているとお伺いしました。
つじぽよ。さん:そうですね。CMなどの撮影でよく使われます。撮影やイベントなど、人が来ることが多いので、土間は広くしています。来る人視点で設計をしました。
来た人がすぐ中に入れるように、
土間は土足で入れるようになっている。
− やはりリノベーションというのはキーになるのですか。
つじぽよ。さん:もちろん物件によるのですが、新築マンションも20年後とかに価値が半分になることもあるので、「目減りが少ない中古マンションの方がいいよね」という話はよくしています。
また、先程言ったように、撮影スタジオとして貸すことで、家自身がお金を稼いでくれます。そのため、家にタダ住みしながら資産の形成ができています。
− なるほど。事業収支みたいな考え方があるのですね。
つじぽよ。さん:はい。上手くいけば、リノベした物件の収入だけでも生活ができるので、例えば「役者をしたかったけど諦めて、一般企業で働いています」という方も、家にも稼いでもらって、夢を追うことができるのではと思っています。
儲けたいというよりは、「いいライフスタイルを送りたい」という素直な気持ちを叶えられる方法を探っている感じでしょうか。そういった方法をいろんな人に伝えていきたいと思っています。
別荘の完成。世の中に選択肢を。
− 今後のお仕事についてもお伺いしたいです。
つじぽよ。さん:直近の話で言うと、別荘を早く完成させたいと思っています。
− 別荘ですか?
つじぽよ。さん:北軽井沢に3,000平米の土地を買って、現在別荘を作っている最中です。
最近徐々に地方へ行く人が増えています。私自身、実際に地方でリノベをしたいと思い、土地を探しに行きましたが、野菜は美味しいし、都市とのライフスタイルの違いが面白くて、地方の魅力が沢山あることに気が付きました。
「地方の貸物件だけでも生活ができる」ということを早く実証して、皆さんにそういうやり方があることを伝えたいので、別荘の完成が直近の仕事でしてみたいことです。
つじぽよ。さん:いろんな選択肢が世の中にあることは重要だと思っています。例えば、「コワーキングオフィスやシェアハウス」など、元々ないものが今では普通になり、「家賃が高くて都心に住めなかった方」も都心に住めるようになっています。
そのような選択肢が世の中にあると、救われる人がいることは間違いないです。なので、その選択肢を自分が開拓し、別荘等も含めてどうしたら成り立つのかを考え、世の中に発信していきたいと思っています。
− 建築は「設計」だけでなく、「コンセプトづくり」も必要なのですね。
つじぽよ。さん:自分より「設計」ができる人は多いですが、「事業性も踏まえたコンセプト作り」ができる人は少ないので、そこは自分の強みを活かせる部分だと思っています。