昼間はエンジニア、もうひとつの顔はフローリスト。一輪の花との出会いから仕事になるまでの歩みとこれから DATE : 2025.07.10
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昼間はエンジニア、もうひとつの顔はフローリスト。一輪の花との出会いから仕事になるまでの歩みとこれから

静岡県浜松市を拠点に昼間はエンジニアとして働きながら、もうひとつの顔はフローリストとして活動するKensuke Shirakiさん。一輪の花との出会いが趣味となり、やがて仕事へとつながるまでの道のりや、花への思いやこだわり、楽しみ方などを伺いました。

 

Kensuke Shirakiさん

Instagram:https://www.instagram.com/kensuke.shiraki/

Instagramがきっかけに開いた花の仕事への道

− もともと、お花は趣味として始められたんですよね。

Shirakiさん:はい。花に関しては、イベントごとがあるとか関係なく、毎週必ず買っていました。買った花は花瓶に飾って、生ける。これを週に何度かやるのが、完全に趣味でした。

− そこから、お仕事として花に関わるようになったのはどういうきっかけだったんですか?

Shirakiさん:Instagramで僕の投稿を見てくださった方から、「お仕事として何かお願いできませんか?」って声をかけていただけるようになって。少しずつですが、お花の仕事をするようになっていきました。

− Instagramを拝見するとバーでも生け込みをしているようですが、具体的にはどのようなお仕事をされていますか。

バーで生けこんだ作品

Shirakiさん:お店の営業中に「お客様の目の前で花を生けてほしい」というご依頼をいただいて、月に1度、営業中に生け込みをしています。

最初にその話をいただいたときは、ちょっと怖かったですね。人に見せながら生けるなんてやったことなかったので。でも、せっかく声をかけていただいたことがありがたくて、チャレンジしてみようと思いました。

− 実際にライブのように生け込みをやってみてどうでした?

Shirakiさん:生け込みを続けていくうちに、「前から気になってて、見に来ました」という方が来てくださることもあれば、生けた花を気に入ってもらって、別のお仕事につながることもありました。花を通じて、いろんな出会いやつながりが生まれてきています。

可愛らしい赤ちゃんをご出産なさったお母さんへのオーダーで作ったブーケ

花への興味は、たった一本との出会いから

− 花に興味を持ち始めたのは4年ほど前とのことでしたが、きっかけは何だったんですか?

Shirakiさん:当時、部屋に観葉植物を飾りたいなと思って、たまたま花屋さんに行ったんです。そのときにラナンキュラスの“ラックスシリーズ”を見かけて。初めて見た花だったんですけど、「すごく綺麗だな」と思って。そこからです。

花への道の扉を開いたラナンキュラス・ラックス

− その出会いから、お花のレッスンなどに通い始めたのですか。

Shirakiさん:実は、そこから1年ぐらいは見よう見まねで花を花瓶に飾っていました。どこでどう習えばいいかもわからなくて。レッスンをしているお花屋さんがあることすら知りませんでした。
最初に頭に思い浮かんだ"花瓶にいけるレッスン"はなおさら見つかりませんでした。でも「これって、いけばなに近いのかな?」って思って、地元でいけばなの花展を探しはじめました。

− アレンジやブーケのレッスンやワークショップはあっても“花瓶に生ける”に特化したレッスンはなかなか見かけないかも。

Shirakiさん:いけばな教室を探しても地元ではSNSも見当たらず、情報があまりなくて。でもあるときSNSで今の先生の作品を見つけて、「この先生の花、すごく素敵だな。習いたいな」って思って。そこから月に1回、東京まで習いに通っています。

いけばな教室での様子

美しい花を生かすために

− Instagramの写真がとても美しく、花の魅力も伝わり印象的です。撮り方にこだわりはあるんですか?

Shirakiさん:まず、時間は朝に生けています。窓から差し込む朝の光を使って撮影すると、花の陰影や枝ぶりの立体的な形や流れが浮き上がるからです。
花は土に植わっている自然な状態で十分に綺麗だと思っています。それをわざわざ根を絶っているのですから、最大限美しく生かせるように努力しようと思っています。

− 花の組み合わせや動き、流れだけではなく毎回花瓶も素敵で気になりました。花瓶はどういったお店で探しているのでしょうか。

Shirakiさん:花瓶にこだわりはじめたのは浜松に作家さんの花瓶を扱うお店があって、そこで買いはじめたのがきっかけです。それからいろいろと見ているうちに、他でも買うようになって。
花と花瓶はどちらか一方が主役というわけではなく、同格だと思っています。花と花瓶がお互いに引き立て合うように花瓶を選んでいます。
例えば曲線のある花瓶なら、そのラインをどう活かして花を生けるか。花と花瓶の両方のラインが引き立つように、常に意識して選んでいます。

− これからお花を飾ってみたい、生けてみたいという方に向けて、「まずはここから始めるといいよ」というアドバイスがあればお願いします。

Shirakiさん:そうですね。ひとつは、「花瓶に生ける」ということに関してなんですけど……花瓶に生けることは敷居も低くて間口も広いのですが、いざやってみるとうまくいかないこともあると思います。
たとえば花を3輪だけ買って生けてみる、みたいなことをやっていたんですけど、花の茎ってピンとまっすぐなものも多くて、ただ花瓶に入れただけでは本来植物が持っている生き生きとした表情や動きが全然だせなくてよく困っていました。

そういう時におすすめなのが、「葉物」を入れてみること。たとえば、ちょっとカーブした葉っぱを1本加えるだけで、ぐっと動きが出て、生けやすくなります。

− なるほど。1種類のお花にこだわらず、葉っぱなども取り入れてみるんですね。

Shirakiさん:それだけでも全然変わりますし、慣れてきたら葉の形や色が異なる複数の種類の葉物を使ってみるのも良い方法です。
もうひとつは、いろんな花屋さんを回ってみることです。僕自身、地元の浜松でたくさん花屋さんを調べて、実際にいろいろ行っています。同じ日に複数の花屋さんを回ると、置いてあるお花が本当に違うんですよね。「この店には葉物が少ないけど、あっちの店にはあるな」とか、「ここには枝ものや実ものが多いな」とか。

Shirakiさん:そうしていろんな種類の花や素材に出会っていくと、結果として「どの花瓶に、どう生けようかな」っていうときの選択肢が増えていきますし、自然といろいろな花の組み合わせに挑戦するきっかけにもなります。
花屋さんごとに個性があるので、ぜひいろいろ覗いてみてほしいですね。

エンジニアと花、両方にある共通点

− 普段はエンジニアなんですよね。どんなお仕事をされているのですか。

Shirakiさん:楽器を作っている会社で、エンジニアをやっています。回路設計やソフトウェアの開発を経て、今はエレクトリックドラムのプロジェクトマネジメントなどに関わっています。

− Instagramでは、お花と一緒に音楽や本の紹介もされているのは楽器という点で音楽が関係しているからなのですか。

Shirakiさん:仕事の関係で、音楽はずっと身近な存在です。花を始めてからも、「音楽と花のカルチャーって、どこでつながるんだろうか?」とよく考えます。というのも、音楽が好きな人が花をもっと好きになってくれるきっかけがあったら、と思っているからです。なので、花がジャケットで使われているアルバムや、花が登場する歌詞なんかを見つけたらストーリーズに投稿しています。いまのところそれほど反響はありませんが(笑)。
ただ音楽に限らず色んな入口から花の魅力に気づいてもらえたらと常々思っています。

− エンジニアの論理的な思考と、花を生ける感性って、かなり対照的なように思うのですが。

Shirakiさん:お花をやるときも、直感でやるだけじゃなくてロジカルに考えるっていうのもすごく大事だなと思っています。
「どうやったら綺麗に見えるか」、「花の持ちを良くするためにはどうやって水揚げすればいいんだろう」とか、「水揚げってどういう仕組みなんだろう」とかをロジカルに考えることと直感で感じたこと両方を持ってやるとうまく綺麗なものが生けられるのではと思っています。

形になった「花瓶から草花が湧き出すような」作品たちと、これからのこと

− Shirakiさんにとっては、まだ始まったばかりの活動かもしれませんが、今までで「これは手応えがあった」という作品はありますか。

Shirakiさん:ここ最近、生けた花は「草花が湧き出すような形」をずっと練習していて、それがようやく形になり始めたというか……。
良い反応をいただけていて、生命力を感じてもらえたのかな、って思っています。

"湧き出す"を意識して生けた作品。右はマグカップを使用

− 今後、花の仕事はもっと増やしていきたいという気持ちはありますか?

Shirakiさん:ありますね。本音を言えば、もっとたくさんやりたいです。
ただ、家族で話すと、仕事をお花一本に絞るっていうのはさすがに同意は得られないかなって(笑)。でも、その中でも、どうやって花の仕事を増やしていけるかをずっと考えています。

− お仕事との両立は大変かもしれませんが、どちらも応援します!花に触れる時間がもっと増えていくといいですね。ありがとうございました。


AFTER INTERVIEW編集後記
Shirakiさんの花への真摯な姿勢と、その繊細な感性が日々の暮らしに豊かさをもたらしている。技術職という論理的な世界と、花を生ける創造的な世界を行き来しながら、両方の良さを活かしている様子がとても印象的でした。写真だけではなく、リアルな場所でもShirakiさんの表現を見られる機会が増えることはもちろん、Shirakiさんの花の表現が、たくさんの人の心を彩ってくれることを楽しみにしています。

Kensuke Shirakiさん
Instagram : https://www.instagram.com/kensuke.shiraki/

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