インテリアショップ「N2 interior」を手がけるFujinoさん。螺旋階段が印象深いご自宅のことから、空間作りや家具選び、植物についてなどを伺いました。すぐにでも真似できる失敗しない買い物術は必読です。
好きを仕事に。ライフスタイルの変化から生まれた自邸
− インテリアはもちろん、ご自宅もとても素敵です。家を建てようと思ったきっかけをお聞かせください。
Fujinoさん:コロナ禍で東京から兵庫に移住することになり、そのタイミングでインテリアショップを始めました。家族もいるので暮らしの場所ではあるんですが、同時に撮影やインスピレーションを受け取るための空間も必要で。住まいであり、スタジオでもある家を作ろうという流れになりました。
− 元々インテリアがお好きだったんですか?
Fujinoさん:中学生ぐらいのときに引っ越しをしたことがきっかけで興味をもつようになりました。
その時に暮らしていた家のものを何も持っていけない引っ越しだったので、ゼロから部屋を自分で作れることになって、インテリアの雑誌や本を読み漁ったのが始まりかな。新しく部屋を作るのはとても楽しくて、前のめりでやっていたことを憶えています。
− ご自宅の間取りについて教えてください。
Fujinoさん:2階建ての戸建てで、2階には4部屋、1階はLDKと小上がりがあります。縁側のような空間が好きで、それを現代の暮らしに取り入れたくて設計の中に反映しました。
小上がりからつながる半屋外の空間があって、テラスともバルコニーとも言えないような、ちょっと曖昧な空間なんですけど、気に入っています。小上がりは縁側が好きだったので作りました。
− インテリア全体のテーマがあれば教えてください。
Fujinoさん:「和洋」「新旧」のバランスを意識しながら、タイムレスで遊び心のある空間を目指しています。たとえば和室にあえてちゃぶ台を置かず、モダンなガラス家具を取り入れるなど、異素材を重ねていくような意識で構成しています。
心に残るものだけを迎える「3日寝かせるルール」
− Fujinoさんが家具や雑貨を選ぶ際の基準はどんなことですか。
Fujinoさん:螺旋階段を空間の「ミューズ」として捉えていて、それに合うかどうかがすべての判断基準になっています。階段を中心に、「空間に合うかどうか」でアイテムを選んでいます。
基準とは違うかもですが、高額な家具などは買う前に「3日間寝かせる」ようにしています。3日寝かせて忘れなければ購入します。これのやり方は本当におすすめです。寝かせることで無駄使いは減りましたね、大概は忘れるんで笑
− 螺旋階段がミューズなのは納得です。拝見した時とても印象的でした。
Fujinoさん:実は昔から螺旋階段が好きで、学生時代は螺旋階段をめぐってサイクリングをしていたほど。家づくりの時も「絶対に真ん中に置こう」と決めていました。黒にしたのも、存在感を際立たせるため。階段を中心に家具の色味も調整しています。
純粋な前向きさに惹かれて。植物は空間に欠かせない存在
− 植物についても少しお話を伺いたくて。いくつかの部屋に植物が置かれているのを拝見して、空間づくりの中で植物が担う役割について、どのように考えていらっしゃいますか?
Fujinoさん:そうですね……。植物って、風とか光のように生物学的に気分を左右する存在だなと思っています。
人工物ではどうしても介在できない領域ってあると思っていて。そこを満たしてくれるのが、やっぱり自然のものだと思うんですよね。気分を上げてくれるとかもそうですし、ヒーリング効果があるとか、目には見えないけれどそういったところで大事な役割があるのかなと思っています。
Fujinoさん:家具も空間も人間も、私は「成長するもの」だと思っています。たとえば家具も、人も、時間が経てば劣化したり朽ちたりしていくものだってイメージされがちですけど、私にとっては、そういう「下がっていく存在」というより、「場を変えながら、また新しい価値を見出していくもの」なんだと思っています。
− すごく素敵な視点ですね。「朽ちる」のではなく、「フィールドを変えて価値を見出す」。
Fujinoさん:そんなふうに捉えているんですけど、植物ってまたちょっと別なんです。
植物って唯一、同じ場所にいながら、ただただひたすら右肩上がりに成長していく存在だなって何か未来に向かってぐんぐん伸びていくような、すごくポジティブなエネルギーを持ってる気がしていて。
− たしかに。植物だけが持つ純粋な前向きさってありますよね。
Fujinoさん:なんか、猪突猛進みたいなポジティブさがあるというか。光の明るさじゃなくて、未来という意味での明るさがあるのは植物だけなのかなって思うので、空間に取り入れる必要があると思いますし、部屋には植物を置きたくなります。
「快適さ」よりも「楽しさ」を。
− ブランドコンセプトとして掲げていらっしゃる「play with space」には、どんな想いが込められているのでしょうか?
Fujinoさん:これはちょっと反骨精神に近いんですけど、日本って「機能的でシンプルなもの」や「こうした方が快適になるだろう」っていうのを基準に物を選んだり、好んだりする傾向が強いなと感じていて。
でも私はそこに、もっと「面白さ」とか「遊び」の感覚を持ち込んでいいんじゃないかなって思っているんです。
海外では、デザインって生活に溶け込んでいて、もっと自由なんですよね。例えば絵画を飾るのも、私達の中では敷居が高く感じてしまう。難しく捉えずに童心に帰るような感覚を、インテリアも取り入れられたらいいなと。
日常のなかで「快適」よりも「楽しい」と思える空間があることに、失われた価値があると信じています。非日常を求めてリゾートに行くのも素敵だけど、私は「毎日過ごす家が楽しい方がよくない?」と思います。その気持ちを大事にしたいなと、このコンセプトを掲げています。
− 賃貸住まいでもできるインテリアの工夫があれば教えてください。
Fujinoさん:私が意識しているのは、「小物を減らすこと」です。小さいものを買わない、というのがすごく効果的です。
日本の住宅は海外の住宅よりコンパクトなつくりのため、そのサイズに合わせた小さなインテリアや雑貨が多くなりがちな印象があります。配線などノイズになるものを隠すことより、小物を置かない方が断然ごちゃついて見えません。リビングやダイニングのように、人が出入りする空間はすっきりと。小さくて愛おしいものは、寝室や玄関など自分だけの場所に飾って愛でています。
− どの家具も素敵ですし、3日間寝かした結果、忘れられずにお迎えされたものたちなのでどれも気に入っているとは思いますが、中でもお気に入りの家具はありますか?
Fujinoさん:建築家・坂茂さんがデザインした「カルタチェア(carta chair)」は特に好きです。実物を見て、触れて、その魅力に惹かれました。
「使い方を決めない」という余白の楽しみ方
− デザインにおいて、「余白」や「未完成さ」のような要素って、どんなふうに意識されていますか?
Fujinoさん:私にとっての「未完成」とか「余白」って、物理的な空間の話じゃなくて、「使い方を決めすぎない」という意味で捉えています。
例えば最近ラグを買ったんですけど、それを床に敷くんじゃなくて、あえて壁にかけてタペストリーみたいに使ってみたり。
− 他にも何かやっていることはありますか。
Fujinoさん:他にも、本も好きな一冊があったら読んで終わりじゃなくて、ページを折ってオブジェにして飾ってみるなど。完成されすぎたものって、面白くないなって思ってしまって。そこにどう遊びを見出すか、というのが好きなんです。もっと身近な日常の中に「自由」や「遊び」ってあると思うんです。
− 遊びの部分って仕事や家事など、日常でつい忘れてしまいがちなのかもしれないと気づきました。本の話がありましたが、FujinoさんのInstagramの投稿から映画や本がお好きなのが伝わります。インテリアや空間づくりに取り込んでいることはありますか。
Fujinoさん: 映画は絵を飾る感覚で楽しみたくて、モニターをイーゼルタイプにしています。本も背表紙をあえて隠して、便箋代わりに使うなど、インテリアの一部にしています。
自宅のアップデートはほんの少しの「足し算」で
− 最後に、これから挑戦してみたいことや、やってみたい空間づくりなどがあれば教えてください。
Fujinoさん:仕事においてはN2 interiorで、宿泊施設の立ち上げは挑戦していきたい領域です。
自宅では大きくアップデートをする予定は特にないけれど、ラグとかで色を足したり、照明の色を変えたりしたいなとは思っています。あと、色のアイテムをちょっと取り入れたいなと。買い換えたいとかより、ちょっと足していきたい感じ。赤が好きなのでどこかに入れたいなとは思っています。